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Web特集イーロンマスクとX
金融・経済
AI

Xの全面有料化「月額2ドル」 イーロン・マスクの思想と「X進化計画」が描く真の目的

里見 晃
2023/10/04

X進化計画

近頃、実業家のイーロン・マスク氏がX(旧Twitter)の有料化について検討しているとの報道が相次いでいる。しかし、Xの有料化についてはTwitter買収直後から検討されていたようだ。


TIMEの元編集長であり、世界的なベストセラー「スティーブ・ジョブズ」などの著者として有名なウォルター・アイザックソン氏が著したマスク氏の自伝「イーロン・マスク」によると、Xの有料化プランは当初からあったのだという。

「月額2ドルの課金はどうだろうか」。

これには偽アカウントやスパムアカウント、「ボット」による不正を防ぐ狙いがあるとしている。また、Xの利用者は毎月5億人以上いるとした上で、1日に1〜2億の投稿があることを指摘。ヘイトスピーチなどの有害投稿についても有料化することで防げる可能性があるとしている。


10月30日の騒動

マスク氏はXの収益を現在の広告主体から大きく方向転換させようとしている。

同氏は当初、TwitterをテスラやスペースXのようなテクノロジー企業と同じであると思っていた。しかしTwitterは収益を広告に頼っており、そこには広告主の存在がある。

広告主はヘイト言動や差別を嫌う。現にマスク氏も買収以来激減している広告主に対して「なんでも好き勝手がいえ、その責任を取る必要もない——Twitterをそんななんでもありの地獄絵図にすることはない」と約束するレターを送っていた。

その直後の10月30日、マスク氏は騒動を起こした。

当時の下院議長で重鎮のナンシー・ペロシ氏の夫、ポール・ペロシ氏が、自宅で寝ていたところをハンマーで襲われるという事件が発生。その際、マスク氏は「男娼がらみの可能性がある」と勝手な推測をする右翼系陰謀論サイトの記事を紹介。「もしかすると、ぱっと見以上のことがあるかもしれない」とツイートした。

エンジニアリングに関することならマスク氏は直感的に理解できるが、人間の感情については、頭の配線具合から対応が難しい。そこにTwitterの買収の難しさがあることが理解できない。広告主の感情も理解できない。Twitterは実のところ、人間の感情や関係に基づく広告メディアであるということが、マスク氏は理解できないし、しようともしない。

ポール・ペロシ氏へのツイートは物議を醸し、マスク氏はニューヨークへ飛んで広告営業チームと善後策を打ち合わせ、広告主やそのエージェントに安心してもらう働きかけをする必要があった。実際マスク氏はニューヨークへ向かい翌日午前3時には到着した。

その後のマスク氏は終始激昂していたようだ。「4月に買収が表沙汰になって以来、ずっと攻撃されている。広告契約をしないようにと活動家が寄ってたかって圧力をかけてくるんだ」と述べたという。

さらに「Twitterは、いつの日か10億人など、幅広い人々に興味を持ってもらえるものにしたいと考えている。そのためにも安全性が大事だ。ヘイトスピーチのつるべ打ちをみたり、攻撃されたりしたら、みんな使わなくなってしまう」と述べた。

ポール・ペロシ氏の件については「私は私でしかない。私のTwitterアカウントは私という個人の延長だ。そして、私という人間は、ばかなこともつぶやいたりするし、間違うこともあるわけだ」と開き直り、謝罪どころか身も蓋もないことを述べて関係者を呆れさせたという。

その翌日には、広告業界から信頼を寄せられているTwitter幹部が大勢辞めた。その結果、多くのブランドや広告代理店がTwitter広告を当面取り下げると発表。月間売上は80%も下落した。しかし、マスク氏はそんな圧力に屈するのは許さないといきり立ったという。

マスク氏はしばし“気まぐれモード”や“無神経モード”に入るが、時折、“悪魔モード”に入ることがある。何かに憑かれたかのような漆黒のペルソナが発する冷たい怒りにさらされる。

「Twitterはいいものだ。存在そのものが倫理的に正しいんだ。彼らは倫理にもとる行為をしている」とし、広告を引き上げるべしと広告主に圧力をかけるのは恐喝であると考え、そんなことをツイートするアカウントを凍結しろと命じたのだという。


Twitterの崩壊は万能アプリ「X」の布石

Twitterの広告による収益モデルは崩壊しつつあるが、将来のビジョンとしては現在の収益スタイルとはかけ離れた形態を計画している。

Twitterを買収し、Xに名称変更したというのは、当初のビジョンであるTwitterの万能アプリ化への布石だ。

「2028年までに売上は5倍の260億ドルとする。広告依存度は現状の90%から45%までに引き下げる。あらたな収益源は、ユーザーから徴収するサブスク料金とデータのライセンス料だ。PayPalやWeChatと同じように、Twitterにも、新聞記事などのコンテンツに対する少額決済の機能を持たせ、そこから収益を得る」という計画を打ち立てている。

マスク氏は何かについてお手本として中国のスーパーアプリ「WeChat」を取り上げている。「機能面でWeChatに並ぶ必要がある。なかでも重要なのは、コンテンツを生み出す人がTwitterで支払いを受けられるようにすることだ」と投資銀行等にも述べている。

オンラインの決済システムには、ユーザーが確認できるメリットがある。クレジット情報を確保すれば、ユーザーが本当に人であるか否かが確認できる。成功すればインターネット全体にも大きな影響を与えることになる。アイデンティティ確認のプラットフォームになれるし、巨大メディア企業から個人にいたるまで、自分が生み出したコンテンツに対して支払いが受けられるあたらしい方法を提供することが可能となるのだ。

Xは8月8日から「Xプレミアム」へのサブスクライブ利用者に対して、資格を満たした場合、広告収益配分を受け取るサービスを開始した(クリエイター広告収益分配プログラム)。報酬体型は明らかにしていないが、百万規模のフォロワーがいる場合、数十万円の報酬を支払っていることが判明している。

これもXの収益化への一環だ。今後、音楽や動画、物語、アートなど、ユーザー生成コンテンツのプラットフォームとして発展させることを考えているのだ。Xのライバルとしてマスク氏は「Substack(サブスタック)」の名前を上げている。

マスク氏はTwitterの買収の際に「めでたい。大昔に作りたいと思ったXドットコムがやっと作れる。Twitterを促進剤にして!」と述べている。24年前にXドットコムで夢みたもの、すなわち、金融プラットフォームとソーシャルネットワークの組み合わせの実現だ。


マスク氏が描くX、それは究極の“遊び場”

マスク氏にとってTwitter——Xとは、心が恋い焦がれる場であるという。究極の遊び場なのだ。

子供の頃、マスク氏にとって遊び場とは殴る蹴るのいじめにあう場所だった。子供の集まる場で感情的にうまく立ち回る器用さなど持ち合わせていなかったし、骨の髄まで痛みが染み入り、ちょっとしたことに過剰に反応をするようになってしまった面もあるが、同時に、この体験があったからこそマスク氏は世界に立ち向かえるようになった。必ず最後まで全力で戦い抜くようになったのだ。

オンラインでもリアルでも、へこまされた、追い詰められた、いじめられたと感じると、父親に罵られ、クラスメートにいじめられた、あの痛い場所に心が立ち返る。その遊び場を自分の手中におさめる日がついにきたのだ。マスク氏がXを、自分の遊び場を最高の場所にすることだけは間違いない。


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画像:Shutterstock



Profile

◉里見 晃
元週刊誌記者。スキャンダルや経済記事を担当した。現在はフリージャーナリストとして、月刊誌、週刊誌、Web媒体で執筆している。暗号資産などWeb3.0領域関連の記事を書く一方で、ラーメンや居酒屋などB級グルメ記事も執筆している。



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