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せきぐちあいみ
メタバース
NFT
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Web3.0

世界的VRアーティスト せきぐちあいみ|「仮想空間にあたらしい世界を創造する」VRの魅力と可能性を語る

Iolite 編集部
2023/07/27

銀色のロングヘアーが目を惹く、VRアートの先駆者—仮想空間で挑戦するあたらしい表現は国内にとどまらず、世界から注目を集める


——VRを知ったきっかけとは?

せきぐちあいみ(以下、せきぐち)VRアーティストになる前はYouTuberだったのですが、とあるメディアの取材を通してVRを体験したのがきっかけでした。空間に絵を描けるなんて魔法みたいだと驚いたことを覚えています。最初は純粋な好奇心から入って、夢中になって描いていました。

——絵の勉強はされていたのでしょうか?

せきぐち:完全に独学です。幼稚園の時からお絵描きは好きで、落書きのように自由に描いていました。幼稚園の先生やお母さん、おばあちゃんから「凄いね、上手だね」とすごく褒めてもらえたことがきっかけで、純粋に絵が好きになっていきました。

ある時、幼稚園で将来の夢を聞かれて、絵描きさんになりたいといったら、「凄いね、でも絵は仕事にならないんだよ」と皆からいわれたのです。

悪気もなく良かれと思っていってくれたと思うのですが、私は「絵を仕事にしている人がいるのになんで?」と思いながら、いつしか絵を描く仕事という夢は私の将来の選択肢から外れてしまいました。

絵は趣味で描くものなのだと思い込 んでまったく別の道を歩み始めたのですが、それが今、巡り巡って絵を描ける仕事に就けたというのは嬉しいことです。


バーチャル空間で世界を創る感覚

——VRのなかで絵を描く感覚と、実際の 紙の上に絵を描く感覚は違うと思いますが?

せきぐち:逆にその違いが、すごく楽しいと思っています。私としては、2Dの絵を描くのではなく、バーチャル空間の360度広がる3D空間がキャンパスになり、世界を創る感覚です。

世界を創って誰かをあたらしい世界に連れていけることは、VRでしかできないものであり表現の幅も広い。作品を通してみてくれた人の想像力のタガを外して解放するきっかけを提供できたらと思っています。


——制作されたアート「Alternate dimension 幻想絢爛」がOpenSeaに出品されて 1,300万円で落札された時の制作秘話や、 購入していただいた時にどのような気持ちだったのかを教えてください。

せきぐち:初めてNFTとして出品した作品で、オークションで値段が付いた時は驚きましたし、嬉しかったです。それまでデジタルアート自体が売れる仕組みがありませんでした。クライアントから依頼をいただき、制作して報酬をいただくというスタイルが多かったです。

クライアントワークは、たくさんのプロフェッショナルが集まっているからこそ、自分だけでは出せないクリエイティブが生まれるといった良さはあります。

しかし、コロナ禍で仕事も減り時間も空いたので、ただただ自分の好きなものを創ろうと思って「Alternate dimension 幻想絢爛」を創りました。そのような経緯で創った作品を出品した結果、価値を付けていただいたというのは、すごく幸せでしたね。

デジタルアートだと良いものであったとしても簡単にコピーができるからということで価値が付きにくかったのですが、NFTによって本来の価値が認められるようになったことは嬉しかったですし、初めてVRアー ティストとしてのスタートラインに立てたような気がしました。

これまで多くのデジタルアーティストの方々は、ゼロから自分だけで仕事を行うという感覚でやっていた人は少なかったと思います。クライアントワークがきて、そのお仕事を円滑に回そうと思うと、気付かぬ うちに世間が求めるものを創っていくことになる。

アーティストは、世間にはなかったような視点から作品を出していくことも人を惹きつける要素であると思うので、長い目線でみて後世に語り継がれる作品を残せるかというものとはほど遠いものになってしまうと思うこともあります。

中世ヨーロッパの画家はパトロンがいて後世に残せる作品を創っておりましたが、NFTはそれに代わるあたらしい仕組みなのではないかと思っています。


▶︎Alternate dimension 幻想絢爛
せきぐちあいみさんが手がけた最初のNFTアート。古い物語を打ち破り、あたらしい次元の世界に行くというコンセプトで創られた。落札額は約1,300万円。


失敗にこそ学びがある
だから、挑戦を続ける

——過去にはYouTuberや劇団などさまざまな活動に挑戦していましたね。

せきぐち:個人的には何でもやってみて、 大失敗してもそこに学びがあると思っております。とはいっても多くの人がハッピーにならないと仕事は続きません。

たとえば、 私はやっていて楽しいけれども皆を置いてけぼりにしているものはお金が生まれないと思っています。反対に売れるために作品を創っても、モチベーションはどんどん下がっていく。創っている側もハッピーで受け取る側もハッピーでお金も生まれるというところを探掘っていきたいですね。

古くからある「三方良し」という言葉。いろいろな仕事に携わってきた過程で感じたのは、三方良しが生まれると上手く回っていくものだなと感じました。その上で、「じゃあ私は七方良しくらいを目指した い」と思います。私が凄くやりがいがあって、人にも届いて業界のためにもなって地域のためにもなるたくさんのハッピーを生んでいきたいですね。

誰からも理解されないけれども自分が素晴らしいと思ったものを、NFTという後世に残す術を使って創っていきたいですね。面白いものをやっていたのに時期が早すぎて注目を浴びなかった人もたくさんいたと思います。後になって、「これってよく考えたらあの人がやっていたやつじゃない?」と思うものってたくさんあります。

私の死後、2023年にせきぐちあいみが創ったものが凄いと評価されるかもしれない。ブロックチェーンに刻むことで分散して残していける時代になったことは素晴らしいことだと思います。


足を突っ込むことも大切


——せきぐちさんのような日々挑戦を続ける方の姿は、多くの方々に勇気を与えると思います。

せきぐち:私自身も日々迷いながらです。 NFT・メタバースいろんなものを使いながら海外でパフォーマンスを行っているのはメチャクチャ格好良い感じですけど、実は迷ったり、失敗したりしながらで、しくじったなと思うことばかりです。実際は泥臭いものです。

私は計画してやるタイプではなく、 取りあえず触ってみて経験値を増やすタイプだと思っているので、怪我したり失敗したりしたとしても、動くことで何かを掴んでいこうと思っています。

私の人生についてはこれが正しいと思っていますが、これが会社の運営となると正しいとはいえないかもしれないです。しかし、アーティストとしてやっていこうという人はいろいろなことにチャレンジしてほしいです。足を突っ込むということは非常に大事なことです。

「メタバース興味あるんです」といいながらアカウントを作ったことがない人がいたり、「NFTをやっていこうと思うんです」といってウォレットを作っていない人もいて、もったいないなと感じることもあります。まずは一歩足を踏み込んでみようということです。得られる情報や感じ方が変わります。

▶︎VR個展
2019年に公開されたVR美術館。デジタルアートの鑑賞に加えて、アートのなかに入る体験が可能。ヴェネツィア国際映画祭のVRセクション、HTC VIVE Wonderlandで紹介された。


——SNSで絵を発信して世界から声がかかるようになったとのことですが、SNSで作品を発信する上で気を付けていることはありますか?

せきぐち:私は以前、とりあえずみてもらうことを考えていました。しかし最近思うことは、アートに限ってはSNSで評判が良いものが良い作品であるとは限らないということ。美術館に保存されている作品でも全然『いいね』されないというものは多々ある。逆に何万『いいね』がついているイラストなどはアート作品として後に残るものではないというものもある。

気を付けて付きあっていかなければならないと思うことは、SNSは自分の仕事の幅が広がるきっかけになるので大事に使っていきたい。ただし、反応の良い悪いに一喜一憂してはいけないということ。人はいろいろなものに影響はされますが、そうならない精神を持たなければならないと思います。

「凄い作品ができたぞ」と思った時に「反応が薄いぞ」とか、まだまだかなと思った作品が思った以上に評価されたりですとか。 結局、作品の評価は自分で決めることではないんですよね。

SNSで最初に作品を出した時、私はまだまだだなと思っていた作品を友達にみせたところ、「みたことない作品だし、凄いから出してみなよ」といわれて出しました。すると思った以上の反響で、仕事が来るようになりました。その時、自分で判断することはやめようと思いました。

それからは自分がボツかもしれないと感じた作品も全部出すようにしています。何年も籠もってひたすら創るよりもバンバン出して、時に傷つきながらやっていく方が長い目でみたら成長度は高いと思います。


アートの可能性を広げるテクノロジーとリアルでしか味わえない情緒感の調和

——国内と海外でアートに対するユーザーの捉え方や感覚の違いはありますか?

せきぐち:私はVRアートに関しては日本と世界でそんなに差はないと思っています。 どこの国に行っても老若男女、驚いて楽しんでくれます。「Wow!」みたいな感じで。その時、VRアートは人間の心に響くものなのだとより確信が持てました。

Web3.0領域のメタバースやNFTはあたらしいものだから、感じ方や捉え方に個人差があるなと感じています。日本でもVRアートのイベント会場は盛り上がっていますが、一歩外に出たら「何それ?」という状況です。

海外でもまたしかりで、一般に認知されているかといえばまだまだです。国全体で盛り上がっている国はなくて、これを生活の軸にしている人は各国に生まれている状況があります。

日本が盛り上がっていないかといえば、 日本のクリエイティブ面は凄いスピードで世界をリードしていると思います。アバターのクオリティも日本がかなり高いレベルです。今は小さな火がいろいろな国で起きている段階にあると思います。


——デジタルとフィジカルのそれぞれの良さとは?

せきぐち:デジタルにはこれから私たちの可能性を拡張してくれる要素があります。これまで得られなかった膨大な量の情報、知識を手に入れることができ、アートの可能性を拡張することができます。一方で フィジカルの肌で感じる体験とか、私たちの心の奥底ではそういうものを求めています。

ライブペイントとなるとそこには生身の人間と触れあうことができるので、圧倒的な“生命”を感じ取ることができます。現代の人たちにとっては、両方を行き来することが凄く幸せを感じることにつながるのではないかなと思っているので、展示では デジタルとフィジカル両方を使うようにしています。

デジタルという便利なツールを使いつつ、人間や自然と触れあう。そこで得たインスピレーションを、またデジタルにフィードバックしたりする。生でしか感じない情緒感などを、デジタル空間に入れることが できたら特別な世界を創れるのではないかなと思います。


人間の想像力を解放するものを創っていく


——今後の展望をお聞かせください。

せきぐち:NFT・メタバースは一過性のものではなく、人類にとって大きな可能性を秘めたものだと思っていて、それらを活用しながらデジタルとフィジカルを組みあわせた作品を、人間にとって想像力を解放するような意義のあるものを創っていきたいと考えています。

海外展開もそうですし宇宙でもやりたいです。私が存在しなくなってもメタバース上に私の作品を残していきたいですね。何にも囚われず、今心動かされるものにトライしていけたら良いなと思います。


——最後に読者の皆さんに一言お願いします。

せきぐち:これを読んでいる方はメタバースに可能性を感じている方も多いと思います。コロナ禍で皆の注目度が一気にWeb上に向かっていったので、予定よりも凄い速さでVRを含めた技術の進歩と注目度は加速したのではないかと思います。

だから一度は落ち着くのかもしれません。しかし、冷静に考えれば技術として人類にあたらしい体験をもたらすものであると思います。

「今盛り上がっているから」とかそういうことに左右されず、あたらしい未来を自分たちが創っていくんだという気持ちでこの業界を一緒に盛り上げたり、自分のやりたいことを突き詰めていったりできると良いのではないかなと思います。未来を待つのではなく一緒に素敵な未来を創ることができたら嬉しく思います。

未来を待つのではなく未来を創る
これが、私—




Profile

せきぐちあいみ
VR/AR/MR/NFT Artist。株式会社MUSOU代表取締役社長。経済産業省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミー創出に係る研究会」委員、内閣府知財事務局 「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」構成員。2016年からメ タバースで3Dペインティングを行っており、2021年3月には、NFTオークションにて自身のデジタルアートが約1,300万円の値を付け落札された。同年、「フォーブス・ジャパン100」の1人に選出。 VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内にとどまらず海外でもVRパフォーマンスを披露し活躍の幅を広げている。



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