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果たしてメタバースは終わったのか? メタバースが描いた理想と現実

Noriaki Yagi
2023/10/20

—はじめに

2021年後半から注目を集めたメタバース。その概念は多様で、大きく3つに分類できるという。VR・SNS派「VRChat」「Meta」、NFT派「The Sandbox」「Decentraland」3DCG派「EpicGames」「Unity」の3つだ。

今までは、これらいくつかの違ったジャンルがまとめてメタバースと捉えられ、一部の不完全な要素を突かれたりもしていた。

しかし2022年後半、EpicGames社が開発を行うFortniteがオープン化するのではないかと噂が立ち、2023年3月に「クリエイティブ2.0」として事実上オープン化が実装された。Fortniteのオープン化は、三つ巴の覇権争いの大きな節目となった。

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—Fortniteのオープン化で何が起こったのか


4億人以上のユーザーを抱えるゲームで、オープン化が起こるとどのようなことが起こるのだろうか。

EpicGames社は、ゲーム開発や建物や自動車の設計でも活用されている、Unreal Engine(アンリアルエンジン)というゲームエンジンを開発している。

オープン化は「Unreal Editor For Fortnite」という仕組みで、Unreal Engineを活用して制作したクリエイティブをFortnite上に移行できるような仕組みだ。これにより、超大手ゲーム会社が作ってきたようなものがFortnite上で楽しめるようになるといっても過言ではない。

コーディングに向いているとされるChatGPT等のツールを活用して、作業の効率化をすることもできるだろう。数人で超人気ゲームを作れる可能性があるのだ。

加えてEpicGames社は、「Engagement Payouts」を発表した。この仕組みは、クリエイターは貢献度に応じて、フォートナイトが生み出した純利益の40%を配分する形で「配当」を受け取ることができるようになるという。

これにより、Fortnite上にクリエイティブを上げるという行為が、収益化することができるようになるのだ。YouTubeやTikTok同様、クリエイティブを保管するデータベースやサーバー等のインフラはEpicGames側が管理しており、クリエイティブ制作に集中できる環境も整っている。

Fortniteのオープン化は、YouTubeを超える巨大プラットフォーマーの出現と、次世代クリエイターの登場を予感させる。


—NFT派メタバースの「Decentraland」の今


昨年、NFT派メタバースの「Decentraland」のデイリーアクティブユーザー数において一悶着あった。ブロックチェーンに関するデータ分析ができる「DappRadar」が「Decentralandのデイリーアクティブユーザー数は38人」と報告し、これに対してDecentraland側が「一部のWebサイトは、特定のブロックチェーンにおける取引を行うユーザーのみを追跡し、その数をデイリーアクティブユーザーとして報告していますが、これは不正確だ」と反論した。

そして2022年9月のデータを引用し、マンスリーアクティブユーザーが50,000人以上いると発表した。これを受けて、「DappRadar」一部測定できていないユーザーがいた事を認めた。

2023年10月現在、「DappRadar」にはDAUの表示はなくなり、UAW(ユニークアクティブウォレット)やトランザクションの件数が表示されている。

Decentraland公式のお知らせに、デイリーアクティブユーザーの近似値をみるのに最も正確なダッシュボードとして明記されていた「DCL Metrics」によると、1日あたり4,000人前後のユーザーがいるようだ。


▶︎DCL Metrics「Unique Visitors」より引用


—2020年、200万ドルの資金調達を達成したThe Sandbox


ピーク時のデイリーアクティブユーザーは100万人を超えていたとされ、ダウンロード数も400万回以上のThe Sandboxについてはどうだろう。

正確なアクティブユーザーのデータの記載がないため、DappRadar」とDecentralandのデータを元に推測してみよう。



この記事を執筆している10月20日時点のDecentralandのデイリーアクティブユーザーは2,692名。


▶︎DappRadarより引用


UAWもトランザクションの件数も、メタバース毎にそれぞれ仕様の違いがあるため簡易的な推計でしかないが、The SandboxのUAWとトランザクションは共に、Decentralandを下回っていることから2,600名以下であると予想できる。


—メタバースが描いた理想と現実


このことからも、全世界の人々がメタバース空間で活動をするには、非常に大きな障壁が存在するようだ。現状のメタバースの課題とされているのが以下の3点。

【メタバースの課題】

・デバイスの進歩と普及
・制作・運用コスト
・法整備

デバイスの進歩と普及

現在のVR機器は、価格、重量、クオリティなどさまざまな面で課題がある。全世界の人々がメタバースに魅力を感じたところで、メタバースへのゲートウェイに1つであるガジェットが普及していなければ、メタバースで活動する人口は増えていかないだろう。

少なくとも携帯性や普及率がスマートフォン程度になれば、メタバースを提供する事業者も本腰を入れてくるかもしれない。

制作・運用コスト

Meta(旧フェイスブック)は、メタバースの研究開発に100億ドル程度の先行投資を行なってきたとされる。発表されたメタバースには賛否両論あったが、開発コストが非常に高いことはわかるだろう。メタバースのマネタイズに成功している企業もあるが、プロダクト構築段階で巨額の投資を必要とするメタバースは参入障壁が高い領域だ。

法整備

メタバース上での活動に対する法制度もまだ整っていない。アバターとはいえどメタバース上で行われる行為が現実世界に影響を与える可能性がある。犯罪の計画がメタバース空間で行われ、シュミレーションによって実行可能性を高めてしまった場合のプラットフォームとしての責任や対策。そのほか、メタバース上での嫌がらせ行為や対人トラブルに現状の法律がどのように適応されるのか不明瞭な点が多い。



—過疎化したメタバースと再起への2つのシナリオ


このことからも、全世界の人々がメタバース空間で活動をするのには非常に大きな壁が存在すると思われる。現代において、可処分時間をそもそもメタバースに使おうと思うのだろうか。一般的には平日は仕事や家事、育児があり、休日には仕事の疲れを癒すために気の知れた友人に会うなど仮想空間での活動に重きを置く理由が見当たらない。メタバースが再起する可能性として考えられるシナリオは以下の2つ。

・魅力的なインセンティブ
・オートノマスワールド(Autonomous World)

魅力的なインセンティブ

前述したEpicGames社の、「Engagement Payouts」のようなわかりやすいインセンティブ設計が、現時点では最もメタバースが盛り上がる要因となると考えている。重要なのは、クリプトを活用し富の再分配をするようなGameFiのような収益モデルではなく、完全に確立された収益モデルの上にメタバース上の活動が追加で評価され収益が分配されるということ。

実際のところ今やっている仕事よりも、メタバースで活動する方が稼げるとなれば、多くの人がメタバース上での活動に当てる時間の配分を増やすことは容易に考えられる。厳密には「Engagement Payouts」という仕組みは仮想空間の開発が条件となっているため、今は参入障壁があることは確かだが、将来的にはさまざまな活動にインセンティブが付く可能性はあると思う。

オートノマスワールド(Autonomous World

仮想空間に存在する世界が完全に自律的に稼働する。フルオンチェーンゲームから始まったともいわれているオートノマスワールド(Autonomous World)は、ETH Globalでは同領域をテーマにハッカソンが開かれるなど、注目を集め始めている。

オンチェーンにすることによって、データの管理は分散され、組み込まれたロジックはスマートコントラクトにより、自動で実行される。ご存知の通り、改ざんのリスクは極めて低く、中央集権的な組織に富を奪われることもないだろう。

要約すれば、ブロックチェーン上にゲームを作っていたら、経済圏も生まれて理想的な世界が作れそうだ、というような捉え方でも問題ないと思う。

たとえば仕事のなかで、チャットボットでも返せるような業務は、オートノマスワールドに存在する自分に行わせても良いだろうし、営業であればアポ取りもできるかも知れない。捉え方によっては、メタバースのあたらしい形といっても良いだろう。


—クリプトの介在余地は

EpicGames社の「Engagement Payouts」ような仕組みが、多くの人々にとって触れやすい状況になった時、果たしてメタバースに暗号資産が介在する余地が残っているのだろうか。

1つだけ想定できるのは、Aというメタバースのサービス提供が終了した時に、Aで積み上げた資産を暗号資産に変換して、Bというメタバース、または現実世界に資産を逃避することくらいではないだろうか。

これはオートノマスワールド(Autonomous World)が日の目を浴びずに、今後3DCG派一強になるという条件付きでもあるため、考えにくいと思う。


—メタバースの未来 ハードの進化で利用用途に合わせた選択がなされる

メタバースの領域にも、VRやSNSにルーツがあるメタバースもあれば、NFTや3DCGにルーツがあるメタバースもある。今後、メタバースの活用は用途に合わせて活用される時期が長らく続くと思われる。

仕事の効率化ではVR・SNSから由来したメタバースで、移動時間や待ち時間等、隙間時間を効率的に削減しつつ、娯楽やあたらしい雇用創出においてはEpicGames社の取り組みのような3DCGから由来したメタバースでの活動が増えそうだ。

メタバースという領域がいくつかのルーツで分類できることを知り、今後もそれぞれの長所を活かした展開を見せる。1つのメタバースが、全てにおいて優れているということが起こるのは考えにくく、用途に合わせて活用できるように柔軟性を持ち向き合っていきたい。


画像:Shutterstock


Profile

◉Noriaki Yagi
大学在学中に飲食業務に従事。その経験から、飲食店のコンサルティング事業及び、アミューズメント領域への人材派遣事業を立ち上げ、代表に就任。同時に自身のブランドを確立させる目的からSNS運用を始める。SNSの運用では、合計フォロワー数1万人を達成後に認知度の拡大を受け、自身のアパレルブランドを立ち上げる。2021年9月に株式会社J-CAMに入社。YouTubeやTwitter運用に従事した後、2022年4月より編集長に就任。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」を創刊。



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