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編集後記Vol4
Web3.0
金融・経済

Determination「信じて賭ける心の強さ」——Iolite vol.4 編集後記

Noriaki Yagi
2023/09/28

Editor’s Note
信じて賭ける心の強さ」

エアジョーダン—

世界的にも有名なこのシューズモデルの名前を耳にしたことがある人は多いだろう。赤と白のベースに黒のスウッシュ(ナイキのアイコン)。マイケル・ジョーダンが試合で履いていた初期モデルのカラーは素晴らしく洗練されている。

映画や読書、芸術に触れると人の人生を滝のように浴びることができ、自身の感性を磨くことができる。日々の仕事に追われ、どうしても貴重な機会は少なくなってしまいがちではあるが、文章を扱う仕事をしていると感性は非常に大切な武器になる。

同じものをみて、異なる発想を持つことはよくあること。しかし、同じものをみて異なるいくつもの発想を持つことは感性がないと難しい。文章から映像をみて、映像から文章を書くような感覚は、個人の持つ感性に由来するのではないかと思う。

先日、みたいと思っていた映画「AIR エア」をようやくみることができた。お察しの通り、「エアジョーダン」ができるまでの実話を描いた映画である。

1980年代、当時のナイキは、アディダスやコンバースといった同業他社に差をつけられ売上は低迷。再起をかけるための企画にも予算が割けず、まさに八方塞がりであった。そこで主人公のマット・デイモン演じるナイキ社の社員は、通常であれば予算が安い複数のルーキーと契約を結びプロモーションを行うところ、とある無名の新人と専属契約を結ぶことを選択する。

主人公が無名の新人に対して、未来のビッグスターの片鱗をみるシーンが非常に印象的だった。試合のビデオを穴が開くほどみて、マイケル・ジョーダンのあるプレーに確信めいた直感が降りてくる。

しかし、翌日ビデオを持って同僚に説明しても、ジョーダンの凄さが伝わらない。それでも彼は辛抱強く、真っ直ぐに自分の直感を信じた。異常なまでの熱量は、疑心暗鬼の会社を変えていくのだった。

社内の調整ができてもまだまだ課題はあ る。当時のジョーダンはアディダスの大ファン。社内だけではなく、社外も調整して事を成す人間の生き様は、仕事が好きな人は共感できるところも多いと思う。少なくとも、私はどこかで自分を当てはめてみていた。

もう1つ好きなエピソードがある。冒頭書いた赤と白のベースに黒のスウッシュのデザインは、ジョーダン の当時の所属チームであるシカゴ・ブルズのチームカラーを落とし込んだものだった。

実はこれが、NBA規定に反するカラーだったため、試合で履くたびに5,000ドルの罰金が課せられることになったという。シューズのデザインを決める時に事前にわかっていながら、ナイキはデザイン案を変更せず、罰金を支払うことを約束したのだ。

「ナイキにとって、ジョーダンは唯一無二の大切な存在である」という思いを込めた、言葉を必要としない行いの数々は、ナイキ社の義理人情を感じる素敵なストーリーだった。

作中で描かれていた主人公は、ジョーダンの可能性を信じている以前に、自分を信じているようにみえた。

時に逆境に立たされても、時に自分以外全員が懐疑的であっても。立ち止まることはあれど、何事にも屈せず固く信じて心を曲げない。まさに、不退転の覚悟を持っていた。自分を信じることのできる心の強さを持っていたからこそ、他者を信じて賭けることができたのだろうと思う。

次号11月末に発売されるIoliteは、年内最後の発行であり節目の号でもある。そんな大切な号の表紙は、世界に股をかけて活躍するアーティストの方が表紙を飾ってくれる。

彼の胸には「不退転」というタトゥーが彫られている。まるで異なる2つの出来事がIoliteに、怠らずに励み、ぶれずに退かないことを説いているような感覚になった。詳しい話はまた11月の編集後記で話そう。

今号の表紙を飾ってくださったのは杉原杏璃さん。学生の時から知っていて、まさか会えるとは思ってもいなかったが、長い間芸能のお仕事をされていたこともあり、撮影時には彼女のプロフェッショナルな部分を多々感じた。

フラッシュでの瞬きは一切なし。ワンピースの裾まで身体の一部のように動きをつくる。インタビューでは、ご自身が少し違和感を感じたカットを、もう1度取り直してみたいと提案を受けたりもした。全身全霊でIoliteに向き合ってくれたことは、言葉で表現するのが難しいくらいありがたみを感じた。

雑誌というオールドメディアは難しいところも多々ある。それでも、唯一無二の存在を目指して「不退転」を心に刻み、これからもモノ作りに全身全霊で向き合っていきたいと思った。

せめて、自分は自分のことを心の底から信じて歩みを進めるように、ベストを尽くしてIoliteに向き合っていきたい。ナイキが己とジョーダンを信じて賭けたように—

Noriaki Yagi