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博報堂key3インタビュー
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金融・経済

博報堂キースリーCEO 重松俊範氏 独占インタビュー web3を大衆に浸透させるために——

Noriaki Yagi
2024/03/28

web3と博報堂の強みで社会や企業の課題を解決する

さまざまなクライアント企業やパートナー企業と共にweb3プロジェクトを推進したり、グローバルハッカソンを開催したりする博報堂キースリーのCEO重松氏にweb3領域の動向や今後の同社の展望を伺った。


チームビルディングや開発までさまざまな課題を解決


——博報堂キースリーの事業内容について教えて下さい。

重松俊範氏(以下、重松)弊社は独立した子会社でもありつつ、博報堂のweb3専門部隊のような立場でもあります。アスターネットワークの渡辺創太氏もボードメンバーであり、博報堂と彼が共同で設立したジョイントベンチャーです。

博報堂は元々、社会や企業の課題を解決することをビジネスの起点にしています。

生活者を深く洞察するフィロソフィーである「生活者発想」や、クリエイビリティにも強みがあるので、それらを上手く活用しながら、今までWeb2.0で解決できなかったことを、web3のあたらしいテクノロジーを使って解決しよう、という会社です。

企業の新規事業の立ち上げにweb3技術を使ってみるとか、web3でもっとファンとブランドのエンゲージメントを高められないか、というようなことに取り組んでいます。また、グローバルハッカソンを通じて、企業としてこれまで解決が難しかった課題を解決するチャレンジもお手伝いしています。

昨年にはトヨタ様、マツダ様、三菱地所様などと協力し数回開催させていただきました。


——元々は読売広告社の上海支社長であったご経歴をお持ちだと思うのですが、博報堂キースリーのCEOに就任した経緯を教えてください。 

重松新卒で読売広告社に入社し、4年間は不動産広告の担当でした。私は最初がこの領域でとてもラッキーだったと思っています。というのも、不動産広告って関われる範囲がとても広いんです。

たとえば折込チラシの制作や配布はもちろん、ホームページ制作やパンフレットや図面集も手掛けます。TVCM、販売センターの模型やシアター内で流す動画なども広告会社が制作します。小さなことから大きなことまで一気に全て関われたので、広告マンとして良いスタートを切れたと感謝しています。

なかでも印象的なのは、今から23年前の2001年にベイエリアの新築マンションを先輩と担当していた時に、販売センターの中で壁と床に強化ガラスを貼ってテレビを敷き詰めて、人が上に立つとスーッと海上を飛んで物件に到着する、というようなコンテンツを作って、今思えばあれってVRだったな、と思います。

2005年頃、中国市場の重要性が高まり、読売広告社でも中国進出の話がでました。立ち上げメンバーの枠はたったひとりだったのですが、どういうわけか入社5年目の私が選んでもらい、上海に駐在することになりました。

行く前は3年くらいで帰って来ようと思っていましたが、中国語を覚えて、それを使って現地で仕事をする感覚が面白くて、気がついたら12年もいてしまいました。

印象的だったのは2013年に担当した日系スポーツ飲料の仕事で、当時1つのサウナに80何カ国の人が入ったというギネス記録があったことに注目して、それを越えようと99カ国の人を1つのサウナにギュウギュウに押し込んで(笑)、皆がサウナから出てきたところで美味しそうにそのスポーツ飲料を飲むという映像を撮影してPRプロモーションとして使用しました。

ギネスにも無事認定されて、それが中国のニュース番組でも流れました。また、生産工場にプロジェクションマッピングやキネクトを使ったインタラクティブコンテンツをたくさん設置し、近隣小学校の工場見学ルートに認定してもらいました。

この工場見学ツアーにはこれまで何万人も参加していて、とてもやりがいのあるお仕事でした。ちなみにサウナのギネスは、2019年にフィンランドで103カ国の参加により記録を塗り替えられてしまいました(笑) 。

中国におけるゲリラ戦を戦っているような感覚はとても魅力的でしたが、一方で自分は今後、日本でちゃんと大企業との仕事もできるのかという小さな不安が募っていました。

以前よりあたらしいテクノロジーが好きだったこともあり、帰国後に、とある大企業のメタバース関連の子会社に取締役として入社しました。ちょうどコロナ禍だったこともあり、ビジネスの展示会が全く開催できない時期があり、これをメタバース空間で開催しようとしました。

自宅からビジネス展示会に出展や参加が出来て、来場者がどの商品のどのPDFを見ているか、というデータを取ることができる。当時はコロナ禍でも新規営業のための名刺獲得ができる、と凄く話題になりましたね。

同時期に、たまたまブロックチェーンに触れる機会がありました。2017年に初めて暗号資産を買ってみたことはあったのですけど、本当に関わり始めたのは2021年頃だと思います。勉強して自分なりに腹落ちしたのが、「メタバースの成立条件はweb3である」という考えでした。

メタバースのなかで私が私であるという証明ができるとか、自分のアバターに着せる服が自分のものであることを証明したりとか、仕事をして対価を貰ってそれを法定通貨にまで転換出来る、といったようにメタバース内で証明や経済活動ができるようになって初めて本当の意味でのメタバースライフは成立すると思ったのです。

そんなことをSNSで呟いていた頃に、博報堂がブロックチェーンの新会社を作るという話があって自分に声を掛けていただきました。私のなかでは、2005年に大きな流れを感じて当時中国に渡ったのと同じように、2023年にこれから間違いなくweb3が来ると感じてこの業界に飛び込んだ感じです。


生活者を深く洞察するフィロソフィー「生活者発想」や クリエイビリティの強みを活かし、訪れるであろうweb3の大衆性を加速させる


——「KEY3 STUDIO」についても教えてください。ここで叶えたいことはどのようなことでしょう?

重松広告会社では、たとえば企画内容により起用するCM監督を決めます。監督ごとに得意なジャンルがあったりするので毎回同じ方ということはないのです。他にもウェブサイト制作時には特定の領域に強い企業を選んだりと、案件ごとに内外の最適な人材や会社を集めてスタッフィングします。

web3の範囲は実は紙の用途と同じくらい多岐にわたり、お金、絵画、会員証、履歴書などさまざまな形態を取り得ると思っているので、web3に関連するすべてを1社で手掛けるのは現実的ではありません。ウォレット、DID、NFTのミンティング、ロイヤリティ管理に特化した企業など、さまざまな専門企業と連携してクライアントの問題解決にあたるのが私たちの基本的なプロジェクトの進め方です。

web3の広範な領域を鑑みると、このようなチーミングが不可欠なので「KEY3 STUDIO」を設立しました。要はweb3に関する案件に対して迅速に対応できるように準備された仲間組織であり、クライアントの課題をなるべく正しい進め方とチームで、web3を活用して解決できないかというアプローチをしています。 


——2024年1月に発表された「web3 Sherpa(ウエブスリーシェルパ)」についてお聞かせください。

重松世界のweb3市場では、スタートアップを中心にさまざまなサービスやプロダクトが生まれています。海外大手企業のなかでも、web3技術を使ったアプリケーションを提供するプレイヤーが出てきています。

しかし、日本ではまだweb3技術を活用した開発プロジェクトは少なく、その要因としてあげられるのが、エンジニア不足と開発ツールの複雑さ、また企業の課題と紐づける戦略構想の難しさだと感じています。

これらの課題を解決すべく、博報堂キースリー、博報堂のマーケティングシステムコンサルティング局、web3開発ナレッジ・ソリューションを保有するスターテイル・ラボ、そしてNTTデータが協力して「web3 Sherpa(ウエブスリーシェルパ)」を提供するに至りました。

博報堂は、生活者発想やクリエイティビティによるコンセプトメイキングには強いが、開発や運用まではやっていないというイメージを持たれがちですが、このチームではプロジェクトの戦略構想からPoCの実施、サービス実装・運用まで一気通貫で伴走することができます。 


——博報堂キースリーの強みをお聞かせください。

重松web3の技術やノウハウ”だけ”を用いて課題を特定し、解決し、完結させることはできません。

課題の発見、計画の立案、当時の生活者のニーズ理解、経営者の困難を把握するなど、幅広い知識を持ち合わせていることが、博報堂も含む私たちの強みとなっていると思います。博報堂は生活者発想を重視し、それを基に企業の成長や課題解決をサポート出来ると考えています。

web3領域に内包されているテクノロジーは、あくまで手段の1つです。クライアントの課題解決にweb3が適切である場合、私たち博報堂キースリーの支援が求められますし、逆にweb3が必要でないと判断されれば、無理にweb3要素を取り入れるような提案は行いません。

博報堂の他の部門につなぐ役割も担って、本当に適切な解決策を提案させていただいています。


Web3はWeb2.0世界を破壊して塗り替えるものではなくその便利さを増すような進化の形

——web3が広まった世の中をどう想像していますか?

重松web3は、Web2.0世界を破壊して塗り替えるものではなく、その便利さを増すような進化の形だと考えます。たとえば、NFTマーケットプレイスであるOpenSeaも、Web2.0基盤で運営されています。

日本が直面している人口減少、円安、少子高齢化、経済停滞といった課題を考慮すると、企業はますます厳しい状況にあります。博報堂の大規模定点調査によると、企業の役員が感じる現状の厳しさは、この20年の間で40%から80%へと増加しています。

資本主義の下で企業は成長を求められますが、現在の環境ではそれが非常に困難です。このような状況下での新規事業の開発は限界に直面しています。 広告会社を母体とする私たちがブロックチェーンを通じてできることとして、企業間の連携にひとつの可能性があるかもしれない、と考えています。

CRM(顧客関係管理)システム内のデータは、企業の貴重な財産であり、その連携は困難です。しかし、ブロックチェーンは企業間の垣根を越えるインフラとして機能し、ある企業の商品を購入した顧客に別の企業のサービスを提供するなど、以前は実現が難しかった協力関係を容易にします。

これにより、企業が成長する手助けができると考えていますし、生活者にとっても少し便利でお得な社会になるかもしれないと思います。web3は、これまでにない形で企業間協力を実現し、よりシンプルに利用できる未来を作り出す可能性を持っている、と考えています。


—web3領域の今後の見通しは?

重松2024年のweb3のユーザー数は、2000年のインターネット人口数と同程度と言われています。

2000年のインターネット状況を振り返ると、1999年にiモードが登場し、1998年にGoogle検索が始まったばかり。FacebookやTwitter、iPhone3GS、LINEの誕生はまだまだ先の出来事です。インターネットの普及にもそれなりの時間がかかったように、web3のマスアダプションにも時間がかかるでしょう。

2000年当時、インターネットはまだ当たり前に使われてはおらず、私の読売広告社の入社試験では、エントリーシートを取りに銀座オフィスまで来るよう指示されていたような時代でした。日々の業務でもFAXを当たり前のように使っていました。

知らず知らずのうちにFAXからメールに変わったように、この後5年から10年の時間を経て徐々に一般への受け入れが進み、いずれはweb3が日常的に当たり前に使用されるようになると思っています。


日常的に使っているアプリ内にウォレットが搭載されることも当たり前になっていく


——web3におけるウォレットの重要性について見解をお聞かせください。

重松当然のことではありますが、ウォレットがないと暗号資産やNFTは送ったり受け取ったりすることができません。なので、日常生活に溶け込むくらい自然に使われるウォレットが大事だと思います。

大手キャリアなどが今後、プレインストールされたスマートフォンを販売する可能性もあるでしょう。そうなると必然的にウォレットを持っているユーザーは増え、使われる機会も増えると思います。

一般ユーザーが日常的に使っている企業のアプリ内に、そっとウォレットが搭載されることも当たり前になっていくと思っています。

たとえば某自動車会社さんは独自のアプリを開発していて、そこではその会社のファンがコメントを書くことができます。それにウォレット機能が付いて、デジタルコレクションが保管できて、NFTマーケットプレイスにも簡単に接続できて、売買もできるかといったUI/UXがあるとユーザーの参入障壁は大きく下がるのではないかと思います。

いずれにしてもキラーアプリがどの形で出てくるかはとても楽しみで、叶うことなら弊社もその時その場所で関われれば嬉しいな、と思っています。


——今後の展望をお聞かせください。

重松今年は、web3を普及させるために企業同士のインターオペラビリティを実現しようという意図で、NTT Digitalさんとも複数のイベントを行う予定です。

このようなイベントも含め、さまざまな企業とweb3プロジェクトの進行をご一緒させていただきながら、知らず知らず訪れるであろうweb3のマスアダプションの一助となれればと思います。

最後になりますが現在弊社では社員候補・業務委託の方も募集しておりますので、ご興味がある方は是非弊社ホームページ(https://www.key3.co.jp/)からご応募頂けますと幸いです。本日はありがとうございました。



Profile

重松 俊範|Toshinori Shigematsu
株式会社博報堂キースリー CEO
読売広告社の上海支社と台湾支社を立ち上げ支社長に 就任。12年の中華圏駐在を終え帰国後、XR企業に取締 役として参画。メタバース空間でのバーチャルイベントプラッ トフォームを立ち上げ、2023年1月より現職。



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